東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)110号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件登録実用新案の要旨及び本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 前掲当事者間に争いのない本件登録実用の要旨に成立に争いのない甲第四号証(本件実用新案の公報)の記載を参酌すると、本件登録実用新案における熱溶融性合成樹脂製の糸捲管が、「各部ほぼ均等の管厚を有」することは、本件登録実用新案の構成に欠くことのできない事項の一を成し、このような構成により、加熱成型後の冷却収縮により糸捲管の表面に凹凸を生ずる虞れをなからしめるという効果が期待されるものであることを認定しうべく、この認定を左右するに足る何らの証拠資料はない。
原告は、この点に関し、「各部ほぼ均等の管厚」とは、糸捲管の同一円周上(横断面上)の各部の管厚がほぼ均等であることを意味するものである旨主張するが、前掲甲第四号証の記載に徴すれば、糸捲管1の管厚は、その縦方向にほぼ均等であることを認めうべく、任意の同一円周ないしは同一横断面上の各部においてのみほぼ均等であることを窺うに足る何らの資料も見出しえないから、原告の右主張は、認容することはできない。原告は、この点について、さらに、本件登録実用新案における「各部ほぼ均等の管厚を有せしめた熱溶融性合成樹脂製の糸捲管1」という要件は、結局、「熱溶融性合成樹脂製の紡績用糸捲管1」というに等しいとも主張するが、本件登録実用新案に関する説明書の登録請求の範囲の項の記載及びその他における効果等の記載(前顕甲第四号証参照)を全く無視度外視したこのような主張の、たやすく認容されえないものであることは、多くの説明を要しないところであろう。
しかして、(イ)号ボビンの構造が、その管厚の点において、本件審決認定のとおりであることは、原告の認めて争わないところであり、この事実によれば、(イ)号ボビンは、その管厚が縦方向において各部ほぼ均等の構成をとつていないことが明らかであり、(イ)号ボビンは、その管厚の点において、本件登録実用新案における構成要件の一である前掲構造を有しないものであることもまた明らかであるから、(イ)号ボビンは、管厚の点において、本件登録実用新案の構成要件の一を欠き、その意味において、他の構成の類否にかかわりなく、本件登録実用新案の権利範囲に属するものということはできないものといわざるをえない。したがつて、右と同趣旨に出た本件審決は、ボビン本体へのスピンドル嵌挿管の嵌入固着の態様その他原告主張の諸点について事実誤認ないしは理由不備の点があるかどうかを判断するまでもなく、正当なものということができる。(なお、本件審決が、(イ)号ボビンが本件登録実用新案の権利範囲に属しないとする理由として、右管厚の点のほかスピンドル嵌挿管のボビン本体への嵌入固着の態様における相違を挙げたのは、(イ)号ボビンは管厚の点において本件登録実用新案の構成要件を欠くことを認定して、その権利範囲に属しないとするための必要にして十分な理由を示したうえ、さらに念のため、右嵌入固着の態様に関する差異をも指摘したものと認められるから、(イ)号ボビンが管厚の点において本件登録実用新案の構成に欠くことのできない要件を欠くこと前認定のとおりである本件においては、とくに、右スピンドルの嵌入固着の態様の点に関する原告の主張について判断をもちいる要を見ないことは、いうまでもない。)
(むすび)
三 以上説示したとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。
〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。
第一 本件登録実用新案の図面
<省略>
第二 (イ)号ボビンの図面
<省略>